2003.12.19
イヴを一緒に
夕海
ここの椅子は、こんなに座り心地が良かったかしら。
何十回、いいえ百を超えるだけ座ってきたけれど。
なんだか、違う。いつもと、違う。
「えっと、僕はジントニックを。かれんは?」
「いつものを、お願いします」
「いつもの?」
「かしこまりました」
少し居心地悪そうに、座り位置を変えながら。
怪訝そうに私を見るコータは、やっぱりどこか可愛い。
「ここでは、これで通るの」
「そう、格好いいね」
「そうかしら?」
本当は、もっと前からコータとここへ来たかったけれど。下戸でアルコール
が苦手だというところから、少しずつ少しずつ。お酒を少量でも美味く楽しめ
るように。
そんな日々を一緒に過ごしてやっとここに、並んで居られる。
「おまたせ致しました。ジントニックとシンガポールスリングです」
「何に、乾杯?」
「そうね……」
甘やかな香りを、楽しみながら。
できるだけ上品な笑顔で私は答える。
「クリスマス・イヴ・イヴに、乾杯」
「それ、なんだっけ」
「シンガポールスリング?」
「うん。なんか、かれんに似合う」
ジントニックで、ふんわり上気してるコータは色っぽい。
男性に対して、ほめことばかどうかわからないけれど。
酔わせると、違う魅力を感じるから。
こういうコータも、好き。
「香りが、華やかだし。女性らしい感じがするよ」
「そう?」
口当たりは、柔らかく爽やか。
けれどそれなりに、強いお酒。
私の大好きなカクテルだから、似合うと言われるのはとても嬉しい。
「でも、ちょっと、妬けるな」
「えっ?」
「きっとさ、オレの知らない誰かが……」
「誰かが?」
「かれんに似合うよって勧めたんだろうと思ってさ」
ポーカーフェイスが売りのマスターが、思わず笑みをこぼすのが視界に入る。
私の頬も、緩むのがわかる。
カラン、グラスの氷までも、笑うように溶けて。
つられて、くすり、笑ってしまって。コータが、ちょっぴり怒る。
「なんだよ、そんなにおかしい?」
「だって」
笑いを止めるために、こくり、シンガポールスリング。
そんな私に代わってこらえきれずに、笑顔でマスターも振り返る。
「実は、お勧めしたのは私です」
「と、いう訳」
悔しそうに恨めしそうにコータが私を見るのが、また可愛くて。
楽しいと思う。ああ恋をしてるって、感じる。
「安心した?」
「意地が悪いね」
「そう?」
いいよ、って拗ねてみせる横顔がキレイ。
グラスをつかむ指がキレイ。
何もかもに惹かれてる自分を、恥ずかしいとかみっともないなんて思わない。
そう、思わない。
「それにしても、どうして今日なの?」
「えっ?」
「だって、イヴは明日なのに」
明日は会議と視察が入ってるから、ここに来る時間も余裕も無いから。
そんなふうに仕事を理由にするのは、なんとなく厭。
だから、洒落た言い訳をずっと探してた。
「だって、クリスマスよりもクリスマスイヴの方が、盛り上がってるでしょう?」
「ああ、そうだけど」
「だから、私はね」
ちらり、お気に入りの時計を確認して。
怪訝そうなコータの耳元に、囁く。
「クリスマスイヴを、一緒に迎えたかったのよ」
くすぐったそうに笑って、コータは。
グラスを空け、私のシンガポールスリングをひとくち、飲む。
その時の喉が、セクシィ。
「じゃあ、オレのリクエストも、いいかな、かれん」
「リクエスト?」
今夜は、かれんのリクエストだったろ?
そんな瞳には、逆らえない。
「クリスマスを、一緒に迎えたいよ。かれんの部屋で、ね」