My Home Ground
〜at the Bar Counter〜
YOKO
「あ、最後の一杯になったね」 空になったボトルを見て思わず出た言葉
マスターは何も言わずほほ笑んで グラスを差し出した
空になったボトルをトロフィーみたいに 私の前に飾ってくれる
鳴らない携帯 吸い尽くしそうな煙草 別に誰かを待ってるわけじゃないのに
こういう夜に限って 誰も電話一本 メール一通 くれないもの…
今夜ここに来たのは 珍しく何もないからだった
いつもは仲間と待ち合わせとか 誰かとの待ち合わせまでの時間潰しだったり
何か用件があるのだけれど
どうしてだろう 今夜はここへ足が向いた
フト考える 昔時間が足りないように感じながら 持て余すように過ごしてた頃を
毎晩ここへ来ては 指定席へ座り 一人でとり止めもなく「何か」を考えていた頃を
ここで 沢山 発見をした
ここで 沢山 忘れ物をした
ここで 沢山 落としていった
どれも大事な「何か」だった
出会いの喜びを笑顔で伝えた日
別れの悲しみを黙ってやり過ごした日
感謝の気持ちを冗談に変えて笑った日
大事な人を見送った日もここへ来た
誰も知らない涙を知ってる
そして最高の笑顔も映したカウンター
記念の写真があるわけじゃない
ここでの時間は全て 記憶の中で
曖昧に 新鮮に いつも心に蘇らせる事ができる
きっと今夜は何かへ回帰したかったのかもしれない ここがそうだと確認したかった
私の成長の原点はここにあって 大事に生きることを 言葉ではないもので学んだ
仕事に手を抜かない姿勢 シェイカーを振る動作だけじゃない
その端々に隠された 細かい作業に 配慮する事で 大事な時間を
最高のものにするサポートに徹する カウンターの向こう側にある世界から
グラスに注がれて こちらの世界へ運ばれてくる それら全てが引き渡される
あれから もう随分な時間が流れた
変わった部分を 成長とうけとめるか 単なる時間の技とするか
今夜は一人 ここに座って 静かに考えたい
何を発見したのか?
何を忘れていったのか?
何を落としていったのか?
このカウンターはそれらを消すことなく ずっとここで待っていてくれたと気付く
この一杯じゃぁ答えが出せそうにないなぁ… ぼんやりしてると
新しいボトルの封を切るマスター
そうね、時間が必要なのを一番知ってるのは あなたかもしれない
また 今夜もここへ「何か」を置いて行く
バーで出した答えは 空のグラスと一緒に カウンターへ というのが 一番自然だと思う
そしてまた 戻ってくる時まで
ここが My Home Ground なのだから